電脳遊戯 第23話 |
99代皇帝と名乗ったナナリーと、ルルーシュ達の会話。 実はリヴァルが話し始めた頃から、その会話の内容は全世界にリアルタイムで流されていた。だからギアスという言葉は誰も使わなかったし、使わないよう話を誘導した。 そして99代皇帝を名乗り、天空要塞ダモクレスでフレイヤを打ち込んだ者達がどれほど愚かかを世界に知らしめたのだ。 「くっ・・・!ジェレミア!!この縄を外せ!!今すぐにだ!!」 その世界中継を見ていたルルーシュは、現在皇帝の寝室のベッドに縛り付けられており、側で護衛をしているジェレミアに自由にしろと訴えていた。 「申し訳ありませんルルーシュ様」 「くっ!ナナリーにあんな暴言を!!馬鹿スザクが!!」 ナナリーが傷ついているじゃないか!もっとオブラートに包め! 酷い発言をしているのはC.C.たちも同じなのだが、怒りの矛先がスザクに向くのは仕方が無いだろう。なにせナナリーにとってもスザクは幼なじみだし、ナナリーはスザクのことが好きなのだ。 好きな相手に吐かれる暴言ほど辛いものはない。 ナナリーの暴言で酷く傷つきながらも、ナナリーの生存を目にした事で、ルルーシュの思考は再びナナリー一色に染まってた。 「しかしながら陛下。皆様の話されている内容は間違っていないと思われますが」 それを言われるとルルーシュは言葉を飲んだ。 そうなのだ。 問題はナナリー側の発言にある。 ナナリーには辛い現実も汚い世界も見せたくないと、常に彼女を守り、慈しんできたが、まさかこんなふうにあっさりと・・・自分たちを見捨てた憎むべき兄と姉の言葉を盲信し、今まで共にいたルルーシュを否定するようになるとは。 ちなみに、画面に見えるルルーシュ皇帝は、シュナイゼルの元から逃げ出してきた咲世子が傷を押して影武者をしているのだ。 咲世子はシュナイゼルの元にいるナナリーの様子も知っており、その様子を余すこと無くスザクたちに伝えていた。 だからこそ、この場にルルーシュを置くことは出来ないと皆が判断したのである。 ルルーシュは浴びせかけられるナナリーからの言葉の刃に傷つきながらも、ナナリーにこの国を任せては、あくどい連中に丸め込まれ、最悪の国家が出来上がってしまうと悟った。 シュナイゼルを傀儡としスザクのブレインとするつもりであったが、コーネリアもまた愚かな思考を持っており、シュナイゼルとゼロが離れた後のブリタニアが荒れることは目に見えていた。 いくら自分以外の皇籍を剥奪したとはいえ、ルルーシュがいなくなれば皇籍に関しては復活するだろうと考えていた。なにせ99代まで続く王の血。国民はその血を継ぐ者を国のトップあるいは象徴として守りたいと考えるはずだ。 だからコーネリアもシュナイゼルも、ナナリーも皇族に戻る。 長年培われた悪習はギアスを持ってしても完全に変えられない。必ずナナリー達は強い発言権を持つに至る。だがそんな上位の者がこんな考えをしていては駄目なのだ。 カグヤにしてもそうだ。 あのような態度をとる者がトップでは駄目なのだ。 ・・・何よりも、あのフレイヤを民間人の上に落とすなどあってはならない。戦争なら、兵士にならまだ理解る。これが軍事基地に落とされたなら戦略としても間違ってはいない。だが、落とされたのはエリア1の首都だ。 しかも宣戦布告もなしで、突然大都市が消滅したのだ。 それを指示したのはシュナイゼルだろう。 決定はナナリーに出させることで、自分は罪を逃れる気なのだ。 全員を避難させたなどという夢物語を吹き込み、数千の命を消し去ったのだ。 ナナリーの命令という形で。 ゼロとなったスザクの補佐につけたとしても思考まで変わるわけではない。こんな危険思想の人間を、平然と大量殺戮という罪を犯した人間を、ゼロのそばにつける訳にはいかない。 「陛下の理想とする平和な世界を作る工程を他人任せにすれば、必ず大きな争いが起きるでしょう」 幾度と無く皆に言われた言葉。 その危険性を考えながらも、ルルーシュは否定し続けていた。 そんなことはない、と。 ナナリーもカグヤも上手くやるだろう。 シュナイゼルもつけるし、スザクもいる。 だが、この愚かとしか言えないやり取りを見てしまったのだ。 決定的な証拠をたたきつけられてしまったのだ。 「ナナリー様が決定を下したこと、シュナイゼル様とコーネリア様が共にいた事。これは全て世界に流れました。その発言も、全てです。自国の民に対しフレイヤを撃つような者たちを、果たして世界は認めるでしょうか」 認めるはずがない。 これは侵略戦争以上の悪なのだから。 すべてが終わった後、ナナリーがどう扱われるのか。 優秀な脳はその答えさえ、いとも簡単にはじき出していた。 「陛下、どうかこのまま皇帝として国を、世界をお導きください」 ナナリー様をお守りするためにも。 祈りのように紡がれた言葉。 ルルーシュにはもう頷く以外の選択肢はなかった。 ルルーシュがこのまま皇帝として君臨する。 そう承諾してからは早かった。 なにせあの中継を世界各国が見ていたのだ。 ダモクレス戦において、ダモクレス側には黒の騎士団の幹部が従ったが、他の黒の騎士団は全員ルルーシュ側についた。 当然だ。 幹部の裏切りにより身動の取れなくなったゼロはルルーシュ側にいるとC.C.とジェレミアが証明した。ルルーシュ皇帝も各植民地エリアを準備が整い次第開放する事を発表したと時「それが我が同胞、ゼロの願いでもある」と、口にしたことで、一気に信ぴょう性も増したのである。 何よりダモクレス側には、黒の騎士団のKMFを、超合集国の制止を無視して強奪した、元日本人幹部たちが集っていた。 そんな元幹部たちの姿に、彼らに裏切られた。と、多くのものが感じていた。 ゼロは生きていたのだから、我々はゼロとともに戦う。 ギアスを掛けていなかったブリタニアの各エリアの軍も動き、大軍勢でダモクレスを取り囲んだ。 だが、黒の騎士団旧幹部から見れば彼らもまたルルーシュに操られた者達。 こちらを罵る言葉を吐きながら、好戦的な構えを取っていた。 「右翼を広げろ」 シュナイゼルが展開させる布陣に合わせ、こちらも変幻自在に陣形を組み立てる。各軍隊は全てルルーシュの指揮下に入る事を承諾してくれたとはいえ、この状況はルルーシュにとっては人質が大量に居るのと何も変わらなかった。 ギアス兵を使い、最小限の被害で抑える。それが当初の作戦だった。 元々ギアス兵達は、フレイヤにより家族を無くし、フレイヤを消し去るためならばこの命惜しくはないと集まった者達に、専用の軍服を用意し、ルルーシュは奴隷となるよう命じたのだ。 そうしなければ彼らはフレイヤに特攻しかねず、余計な被害が出てしまう。最小限の被害とするために、完全な駒に徹するようギアスをかけていた。 その策が使えなくなる。 ルルーシュは眉根を寄せながら、目の前に広がる戦線を静かに見つめていた。 |